大判例

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山口地方裁判所 昭和42年(ワ)122号 判決

主文

被告は原告らに対し別表「認容額」欄記載の各金員およびこれらに対する昭和四二年七月二一日より支払済まで年五分の割合による各金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを六分しその五を原告らの、その余を被告の負担とする。

この判決の主文第一項は原告らにおいて右認容額の各三分の一宛に相当する金員(円未満切捨て)の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告ら

(一)、被告は原告らに対し、それぞれ別紙「請求金額」欄記載の各金員ならびにこれに対する昭和四二年七月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言

二、被告

(一)、原告らの請求をいずれも棄却する。

(二)、訴訟費用は原告らの負担とする。

第二、原告らの請求原因

一、当事者

被告会社は、一般放送事業等これに付帯する一切の業務を営業目的とする資本金二億三、〇〇〇万円の株式会社であり、原告らは、いずれも被告会社に雇用されている従業員であつて、被告会社従業員をもつて組織されている山口放送労働組合(以下、単に組合という)の組合員である。

二、ロツクアウトの実施

被告会社は、昭和四二年五月六日午前二時ころ組合に対しロツクアウトに入る旨の通告をして原告らの就労を拒否し、そのころ会社(本社)施設の周囲に有刺鉄線をはつて原告らの立入りを禁じ、その後右ロツクアウトを同年七月四日解除するまで継続してその間原告らの就労を拒否した。

三、ロツクアウトの違法性

本件ロツクアウトは、左記詳述する事由のとおり、(1)、争議行為としての目的をもたず組合の弱体化ないし攻撃破壊を目的とする不当労働行為であること、(2)、ロツクアウトの要件である企業の存立の危険性、防禦的性格等を欠くものであることのいずれの見地からも違法である。

(一)、被告会社の性格

昭和四二年秋、被告会社のテレビカラー化体制の整備を最後に、全民間放送四五社のカラー体制は完成することとなつたが、これに伴い被告会社を含む民間放送会社は、カラー体制化のための設備投資の回収としての合理化計画、すなわち白黒用テレビ機器の完全な償却、機器自動化、電子計算機の導入、社屋スタジオの増改築、放送時間延長、人員削減、職務給導入等々を総合的計画的に行つた。被告会社は、ローカル局の中で比較的小規模の部類に属するため新たな資本投下を制限されていたが、人員削減、放送時間延長等の合理化を進め、昭和四二年度においては、その五年前の純利益金の一〇倍に匹敵する一億六、〇〇〇万円余りの利益金を計上するほどに至つた。また、被告会社は管理職職制を濫造し、昭和四二年当時、全従業員二二五名のうち局長・部長・課長・係長等合計七九名の職制を作り、従業員三人に対して一人が職制という異常な割合となつている。

(二)、昭和四二年度春斗要求問題の経過

1、役職手当大幅増額問題

被告会社は、組合の意見を聴取することなく、昭和四二年一月二六日付をもつて給与規則改定の届出を労働基準監督署に行なつて管理職手当を一・五倍ないし三倍余り引き上げたが、かかる措置の結果、低賃金に甘んじている原告ら従業員との間に紛争が予想されたにもかかわらず、その後右規則改定につき届出済みであることを公表せずに右改定に関する組合の意見書の提出を求めるに及んだ。しかし、被告会社は組合の指摘をうけて同年三月二五日に右届出済の事実を公表し組合に陳謝したのであつて、原告らの被告会社に対する不信感を強めさせ、今次春斗を紛糾させた一つの原因となつている。

2、春斗要求とその交渉経過

組合は、昭和四二年二月一四日臨時大会決定にもとずき、同月一五日および二三日に被告会社に対し、基本給表の是正、一律一万二、〇〇〇円の賃上げ、諸手当の増額、査定撤廃等合計一一項目の要求書を提出し、これに対する回答日を同年三月一日と指定した。

ところが、被告会社は右回答日を徒らに延期し、同年三月二八日にようやく提出した第一次回答は、従業員のうち一五名について基本給額が低下する結果となるものであり、臨時昇給額も低額で、その他の組合要求に対しても殆んど現行どおりとする回答であつた。そこで組合は、被告会社の誠意ある第二次回答を求めたところ、被告会社は、右一五名に対する救済措置および臨時昇給額を組合員平均一、七〇〇円(定額八〇〇円、基本給比例九〇〇円)とする第二次回答を最終回答として組合に対し呈示した。しかしながら、右臨時昇給額は、過去の昇給率に比較して極めて低額であり、かつ、被告会社の賃金体系がいわゆる上厚下薄であるから原告らのごとき若年層にとつて不利な回答であつた上、その他の組合要求についても満足できなかつたから、組合は更に被告会社にその修正を要求した。その結果、被告会社は同年四月三〇日、後記の人事問題を被告会社案どおりとすることを条件に、右臨時昇給額一、七〇〇円の配分を組合員一律とする等の提案をしたので、組合は春斗要求問題を一応満足すべき結果であると判断したから、春斗要求事項については事実上この時点で妥結する見通しがついたのである。

しかしながら、被告会社は、後記の人事問題を被告会社案どおり強行することを固執して右のごとき春斗要求問題について譲歩したにすぎなかつたから、組合は右同日被告会社の前記交換的提案を拒否し、以後人事問題についてのみ団交が続けられたのであり、今次紛争を誘発し激化させた原因は右のことき被告会社の挑発にあつた。

(三)、放送延長に伴う人事異動

1、放送延長計画および人事計画の事前協議義務違反

被告会社は、昭和四二年三月八日組合との団体交渉の席上、新番組編成に伴うテレビ放送時間延長を計画中である旨を明らかにし、翌九日被告会社の管理職において右延長計画に伴う人員計画の協議をはじめるに及び、同月一三日人員計画を除くテレビ放送時間延長計画を公表した。それによれば、早朝放送が二五分繰り上がり、午前九時三五分から同一一時二〇分までの従前のあき時間を放送時間とし、さらに深夜は午後一一時四〇分から同一二時二〇分までの四〇分間放送延長して合計二時間五〇分の放送時間延長となる。そして、同月一八日被告会社は本社テレビ技術部テレシネ課二名減員等を含む合計四名の人員異動を発表し、同月二〇日には同年四月三日から実施予定の新勤務表および業務分担表を提示した。

ところで、組合と被告会社との間には、いわゆる事前協議協定および人事協約があつて、これらによれば本件計画については七日間の通告期間と相当な協議期間を必要とし、さらに人事異動にもとづく研修期間をあわせ考えると、被告会社は放送延長計画について組合との事前協議義務を無視しているものといわざるをえない。このような結果は、被告会社が本件放送延長計画をネツト局との関係や他社との競争上のなりゆきから便宜的、無計画に決定したところに原因があつたのであり、被告会社の事前協議協約の履行を怠る傾向は、次のとおり団体交渉による解決意思の欠如と共通するものがある。

2、交渉経過

昭和四二年三月二〇日被告会社が新勤務表と業務分担表を提示したので、組合は右会社案の検討を行い、同月二九日の団体交渉において会社案に対する反対提案としてテレシネ課員四名増員等を要求したが、その際、被告会社は、会社案の強行実施を主張し、組合の意見に対しては一応の検討はするという、不誠実な返答であつた。翌三月三〇日も同様被告会社は放送延長に関する人事異動を会社案のとおり確定したとの発言をし、以後、当初のテレシネ課二名減員について一切の譲歩を拒否しつづけてきた上、同年四月五日に、同月一〇日付で人事異動の内示をする旨発表した。その後も、団体交渉を重ねたが、被告会社は話し合いによる解決の意思を欠き、放送延長計画を予定通り強行に遂行した。そこで、組合は同月三〇日、いわゆる三六協定の期限切れおよび放送延長実施予定日の切迫を考慮して職場の混乱を避けるため、交渉の即時妥結を望んで団体交渉に入つたところ、被告会社は前記のとおり春斗要求について譲歩しながらも、放送延長に伴う人事異動については組合が会社の方針を了解すべき旨回答した。しかしながら、組合は同年二月一五日春斗要求書提出以来ひき続き放送延長については協力することを約していたのであつて、ただこれに伴う人事異動について事前に十分協議して適正な配置をするよう要求していたのであるから、被告会社に対し右回答につき再考を促したが、組合も人事問題と春斗要求とを一挙に解決するため、テレシネ課員の前記増員要求を保留するから被告会社も人事異動発令前の旧勤務体制に戻すべき旨提案したところ、被告会社はこの案を拒否し、同日中のその後の団体交渉は決裂した。以後人事問題については被告会社の譲歩はなく、やむをえず組合は同年五月四日人事異動発令前の勤務体制で一定期間を置いたのち放送延長に全力で協力する旨の新提案を出して譲歩したが、被告会社はこれに応ぜず本件ロツクアウトをするに至つたものである。

(四)、いわゆる単発業務についての事前協議問題

被告会社は、昭和四二年四月一五日県会議員選挙速報の放送を予定し、同月二一日には下関体育館におけるプロレス中継放送を予定した。右業務はいずれも準備作業に相当時間を要し、担当者にとつて通常の勤務とは著しく異る勤務形態になるので、家庭の都合や健康上の理由から、事前に勤務形態を知つた上被告会社に対し担当替えの交渉をする必要もありうる。このような事情で、右両日の業務について、組合はそれぞれその一週間前に前記事前協議協定にもとづく協議を申入れたところ、被告会社は、右業務がいわゆる単発業務であるから右事前協議協定の適用はないとして右申入れを拒否した。しかし、右事前協議協定締結の際、機器の自動化のほか選挙速報等いわゆる単発業務の場合も協議対象事項にする旨労使双方が合意し、その後円満にこれらにつき協議されてきたのであるが、昭和四〇年ころから被告会社は右協議を拒否し、昭和四二年一月の衆議院議員選挙速報に関し紛争が生じた際、被告会社は選挙速報について事前協議の対象とする旨約束していた経過もあつた。したがつて、被告会社が前記県会議員選挙およびプロレス中継業務について事前協議を拒否したことは、今次紛争の主要争点であつた人事異動について被告会社に組合との間で話し合いによる解決の意図がないことを示すものであつて、組合の被告会社に対する不信感をあおつたのである。

(五)、組合の争議行為

1、今次紛争における組合の争議行為の経過

組合は、昭和四二年三月四日臨時組合大会において春斗要求に関するスト権を、三月二七日放送延長に伴う労働条件切り下げに反対するスト権をそれぞれ確立し、これらにもとづき三月一五日春斗要求に対する被告会社の回答遅延に抗議して組合員全員の二時間ストライキを、同月三〇日被告会社の前記第一次回答の是正を要求して本社組合員の一時間ストライキを、同年四月七日と一〇日および一三日、人事異動強行実施阻止ないし春斗問題回答の遅延に抗議してそれぞれ一時間、二五分、二時間一〇分の本社組合員全員のストライキを、同月一五日県会議員選挙速報に関する事前協議義務違反抗議の意味を含めて組合員全員の一一時間ストライキを、同月一八日被告会社の人事異動発令に抗議して本社組合員全員の五時間ストライキを、さらに同月二一日組合員全員の二時間ストライキと一時間ストライキおよびプロレス中継担当者八名の一二時間指名ストライキを、同月二四日から二七日まで勤務変更拒否ないし新勤務拒否の争議行為を、同月二八日、二九日および同年五月二日、人事異動による配置転換対象者の指名ストライキを、同年四月三〇日、五月四日、前記新勤務拒否の争議行為をそれぞれ行つた。

なお、五月一日、三日、五日の各休日に組合は本社組合員全員に休日出勤を拒否せしめたが、同月以降については三六協定が締結されていないため、就労させなかつたにすぎない。また、同月五日付の翌六日のストライキ指令、新勤務拒否指令について組合は同日午前七時ころ被告会社に対し、右指定取消しの通告をなした。

2、いわゆるミニストについて

いわゆるミニストは、ステーシヨンブレークのごく短い時間をねらつて行なうストライキであるが、このようなストライキは、使用者側のロツクアウトを招く口実を与えるうえ、特定少人数の争議行為は大衆的労働運動の戦術としては局部的であり、かつ使用者に経済的打撃を与えるのみで実効がないとして、昭和四一年春斗前後からの組合の産業別統一組織の上部機関はミニストの実施について消極的な指導方法をたてていた。したがつて、今次紛争においても、組合はミニストを実施しなかつたのであり、また被告会社においても右のごとき組合の戦術転換の実情を十分吟味しミニストの可能性を予想していなかつたといえるのである。

3、無通告ストライキについて

被告会社と組合間に無通告の争議行為を制限する協定は一切存しないのであるが、組合はすべての争議行為につき会社に対しその実施の予告をしており、新勤務拒否斗争の際もいずれもその前日に斗争指令を被告会社構内通路に設置された組合掲示板に掲示する方法をもつて被告会社に通告していた。組合ニユースにおいて無通告ストライキが報ぜられたことがあるが、右ニユース内容は組合の教宣部が組合員の士気を鼓舞するために記載したにすぎず、組合の決定方針ではない。また、今次紛争中に近隣各社で無通告ストライキが行なわれたこともない。

4、新勤務拒否斗争について

本件テレビ技術部テレシネ課における新勤務拒否の争議行為は、配転該当者にとつては実際上配転拒否に等しく、配転前の職場に出勤するものの上司の命令に違反してまで従来の業務を遂行するものではなかつた。したがつて、上司の監督下にある正常な業務遂行が妨害されることはなく、また配転者以外の者が旧勤務形態で就労していてもそれが新・旧いずれの勤務形態で就労しているか個々に確める必要があるほどに両勤務形態は類似していた。このように組合員が旧職場に出勤することは、配転に抗議する意思を明確に示す目的があるにすぎなかつたから、かような争議行為を違法とされるいわれはない。

(六)、ロツクアウト後の事情

1、原告らの就労請求と被告会社の臨時雇による操業

原告らはロツクアウト後これが解除されるまで連日にわたり就労要求をしてきたが、被告会社はこれらを一切拒否しておきながら、臨時職員を多数雇い入れて操業を継続した。かかる行為は単に労務提供の受領拒否にとまらず、組合に対する攻撃であつて、争議権や就労請求権を無視するものでもあるうえ、労使間の利益の権衡を失することになるから不当である。かりに右操業が許されるものとしても、その業務内容はロツクアウト通告時を基準とすべきであるにもかかわらず、大幅に業務内容の変更を加えて操業した違法がある。

2、被告会社の反組合的行動

被告会社は、ロツクアウト中に、組合員の上司・友人を介して組合員の組合脱退を勧誘し合計一一名の脱退者を獲得し、社長命令をもつて東京・大阪・下関の各支店長に支社組合員の組合脱退を勧告させたほか、第二組合の結成を指導して組合攻撃をしたうえ、本訴係属中には三四名の組合員を脱退せしめた。そのほか、被告会社は本訴係属中の昭和四二年一一月三〇日に組合の中心的活動家等一三名に対し、争議行為の指導責任追求と称して、その処分の意思を明らかにして組合に動揺を与え、同年一二月再び職制の大量昇格をはかり、同四四年三月、一四〇名の人事異動を強行実施して本社から組合活動家を放逐し、同年一一月にはAPS体制導入を理由に人事異動を強行したものである。

以上の経過から明らかなごとく、被告会社の本件ロツクアウトは冒頭記載のとおり不当労働行為であるといわなければならない。かりに不当労働行為と認められないとしても、本件ロツクアウトはその要件を欠く違法なものである。すなわち、ロツクアウトは、労働者の争議権保障の反面としてかつこれに対抗するものとしてのみ認めうるものであるから、これが適法になしうるためには、労働者の争議行為により企業の存立に致命的かつ緊急の危険が生じており、その行使が先制的・攻撃的でないことおよび使用者の損害に比し労働者の利益を不当に侵害しないものであることを必要とすべきであるが、前記経過によれば右要件をいずれも欠いていることが明白である。

(部分的ロツクアウトの可能性について)

今次紛争において被告会社のロツクアウトが余儀ないものであつたとしても、ロツクアウトの範囲は本社テレシネ室付近のみに限定されるべきであることは、右ロツクアウト当時組合員合計九七名中テレビ技術部所属の組合員は二三名にすぎないうえ、本社テレシネ室とそこに至る付近通路のみを対象にロツクアウトを行うことは本社社屋の構造上も可能であり、また今次紛争中に組合が資材の搬入を阻止する可能性がなかつたことからも明らかである。これに反する被告会社の本件全面ロツクアウトは、企業存続のための操業維持の限度をこえた不適法なものであり、さらに前記経過を考え合せると、本件ロツクアウトは単にテレシネ室以外の範囲において違法とされるにとまらず全体として違法なものといわねばならない。

四、賃金請求権

ロツクアウトは、それが正当とされてもこれにより直ちに労働契約が変更されるものではないから当然に賃金支払義務を免れるものでなく、労働者の争議行為によつて企業の存立がおびやかされる様な急迫した具体的危険性ないしそれに類する緊急性が存在する場合に限り、民法五三六条一項により賃金支払債務を免責されるにすぎない。

本件においては、前記三(ロツクアウトの違法性)記載のとおり、被告会社の責めに帰すべき事由にもとづき今次紛争を激化させた事情にあるから、組合の争議行為を誘発した被告会社において、本件ロツクアウトにより賃金支払義務を免れるほどの緊急性はない。また本件ロツクアウトがやむをえず企業防衛のため実施されたものでないうえ、被告会社が他に適当な対抗手段を発見できない状態に陥つていた事情にもないことは前述の経過から明らかである。

以上のとおりであるから原告らは被告会社に対しロツクアウトにより就労できなかつた期間の賃金の支払を請求しうるところ、原告らの本件ロツクアウト期間中の原告らの賃金額は別表「ロツクアウト中の賃金額」欄記載のとおりであり、昭和四二年度夏季手当および同年度年末手当額中、本件ロツクアウトによる減額金額はそれぞれ同表「夏季手当減額分金額」、「年末手当減額分金額」欄記載のとおりである。

よつて、原告らは被告会社に対し同表「請求金額」欄記載のとおりの各賃金およびこれらに対する本訴状送達の翌日である昭和四二年七月二一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三、請求原因に対する被告会社の答弁

一、請求原因一、二の事実は認める。

二、同三の(一)の事実中、被告会社の従業員数については認めるが、その余の事実は不知。

三、同三の(二)1の事実は不知。同三の(二)2の事実中、同項記載のとおり、組合から要求書の提出があつたこと、被告会社が第一、第二次回答および条件付提案をなしたこと、組合が右提案を拒否したことは認めるがその余の事実は否認。

四、同三の(三)1の事実中、被告会社が事前協議義務を無視したことを否認し、その余の事実は認める。同三の(三)2の事実中、同項記載のとおり、被告会社が新勤務表と業務分担表を提示したこと、組合が会社案に対する要求書を提出したこと、被告会社が人事異動の内示を発表したこと、昭和四二年四月三〇日に被告会社が組合に対し春斗要求につき譲歩するから人事異動を了解すべき旨回答したこと、同日組合は増員要求を保留するから被告会社も人事異動発令を撤回すべき旨回答したこと、被告会社はこれを拒否して団体交渉は決裂したことは認めるが、その余の事実は否認。

五、同三の(四)の事実中、同項記載のとおり、県会議員選挙速報およびプロレス中継放送を予定したこと、組合の事前協議申入れに対し被告会社はこれを拒否したことは認めるが、その余の事実は否認。

六、同三の(五)1の事実は認める。ただし、三六協定締結拒否行為が争議行為ではないとの点は争う。同三の(五)2、3の事実は不知。同三の(五)4の事実は争う。

七、同三の(六)1の事実中、原告らが連日就労請求したことおよび被告会社が臨時雇を採用したことは認めるが、その余は争う。同三の(六)2の事実は否認。

八、同四の事実中、原告らのロツクアウト中の賃金額、ロツクアウトによる夏季手当・冬季手当各減額分金額が同項記載のとおりであることは認めるが、その余は争う。

第四、被告会社の主張(本件ロツクアウトの適法性)

一、今次紛争の経過

(一)、組合の春斗要求に関する交渉経過

組合の前記春斗要求に対し、被告会社は昭和四二年三月二八日被告会社作成の修正基本給表にもとづき組合員一人平均九八六円および一、五〇〇円の臨時昇給、修正基本給表にもとづく定期昇給等を実施する旨回答し、同月三〇日以降労使間において右交渉が重ねられたが組合の納得をえられなかつたので、同年四月二四日、二七日被告会社は住宅費補助二、〇〇〇円(支社・支局)、食費補助一食二〇円(本社)の各増額、東京・大阪各支社の通勤費を実費支給すること、修正基本給表を再度修正して組合員一人平均一、一八八円およびこれと別途に組合員一人平均一、七〇〇円の各臨時昇給をすること、人事考課は廃止しないが今回限り標準以下の者は標準として取扱うこと、深夜勤の割増率を〇・四から〇・五の割合に引上げること等を回答し、これ以上譲歩する余地のないことも明らかにした。しかしながら、組合は臨時昇給額の一律配分および査定の撤廃を要求し続けたので、被告会社は同月三〇日原告ら主張のごとき条件付最終提案を行つたものである。

(二)、放送延長計画

被告会社の本件放送延長前の放送時間は、テレビについては月曜日から金曜日までは午前九時一〇分から同九時三五分までと同一一時一五分から午後一一時四〇分までであり、土曜日は午前八時一〇分から同九時三五分までと同一〇時五〇分から翌朝一時三〇分までであり、日曜日は午前七時三〇分から午後一一時四五分までであつた。

ところが、昭和四〇年一一月八日NTVをキー局として始まつた番組「11PM」について、営業政策上これを放送する必要に迫られ、同四二年二月二〇日右「11PM」の放送を同年四月三日から放送時間を延長して実施する旨決定した。そこで原告ら主張のとおり放送時間を延長することとしたが、そのうち二時間二五分は従来からの所定勤務時間内であつたから、放送延長に伴う実質的な勤務時間の延長は二〇分間にすぎない。

(三)、放送延長に伴う人事異動に関する交渉経過(いづれも昭和四二年中で、団交回数は今次春斗、放送延長に関する団交回数を示す)

三月八日 第三回団交で組合から放送延長計画につき協議申入れがあり、被告会社は計画中ではあるが、四月三日実施予定であることを明らかにした。

一三日 放送延長計画の大要を組合に述べた。

一八日 第五回団交で右計画に伴う人事異動案として次のとおり発表した。(1)、業務部編成課においてテレビ運行要員二名、ラジオ編成運行要員一名、業務部連絡課テレビCM整理要員一名をそれぞれ増員、テレビ技術部テレシネ課において運用要員および保守要員各一名(計二名)を減員すること、(2)、勤務シフトを一部変更すること、(3)、タイムCFは最低一時間以上一本化することとし、この業務は編成課において行うこと。

二〇日 新勤務表および業務分担表を提示した。

二三日 第一回テレビ技術部会で放送延長に伴う人員計画を討議した。

二四日 第二回テレビ技術部会で前同様討議した。団交において、一八日付人事異動計画(1)を、業務部編成課においてテレビ運行要員二名増員、テレビ技術部テレシネ課において運用要員および保守要員各一名(計二名)減員、制作部アナウンス課において女子アナウンサー五名採用、と変更した。

二五日から三〇日までに第八回ないし第一二回の団交をした。

二七日 第三回テレビ技術部会で前同様討議した。

二九日 第一一回団交で、組合はテレシネ課四名、編成課テレビ運行担当二名、アナウンス課男子四名、報道部五名を各増員することおよび勤務形態の変更等を要求した。

三一日 第一三回団交で、組合の右要求につき質議した。テレシネ課会で実施上の運用について討論した。

四月五日 五月第一週を期して放送延長を実施するために、四月一〇日に人事異動を内示する旨組合に通告した。

一〇日 第一九回団交で、春斗要求のほか放送延長問題を討論した。人事異動命令を当該対象者に発令するとともに、組合に提示した。

一一日 被告会社の社長が団交に出席して前回同様に話し合つたが、組合は人事異動内示を撤回すべく要求した。

一三日 放送延長問題を討議した。

一五日 第二二回団交で、春斗問題、延長問題を討論し、組合に対し予定通り人事異動を発令する旨伝えた。

一七日 先に内示したテレシネ課員二名について人事異動を発令したが、組合はこれに抗議をした。

一九日 第二五回団交で、春斗問題および放送延長問題を話し合い、さらに、地方選挙の速報業務について事前協議事項となるか否か対立主張された。

二〇日 第二六回団交で前日同様に討論をした。組合に対し翌二一日のプロレス中継業務につき実力行使をさけるよう希望する旨告げ、春斗要求はさらに検討中であると伝えた。

二一日 前日同様に討論した。被告会社はテレシネ課の勤務については実験期間をおくこと、現場の意思疎通をはかるため、労使で小委員会を設けるとの提案をした。

二四日 第二八回団交で、後記新勤務拒否斗争につき組合に対し不当であると警告を発した。組合は、本日だけ組合指令を解くから、被告会社も本日だけ人事異動にもとづく業務命令を保留して話し合うよう提案してきたが、被告会社はこれを拒否した。春斗要求について、前記住宅費補助、食費補助を各増額する旨回答した。

二五日、二六日 放送延長、春斗要求につき団体交渉をした。

二七日 第三一回団交で、最終回答として、修正基本給表を改め、臨時昇給額、人事考課、深夜勤割増率を前記のとおり改善し、放送延長に伴う諸条件については継続審議する旨伝えた。

二八日、二九日 第三二、第三三回団交を行つた。

三〇日 合計五回の団交を行つた。被告会社は組合に対し、(1)臨時昇給を一律一、七〇〇円とする、(2)査定につき組合に納得のいく措置を講ずる、(3)組合の放送延長実施条件を提示すべきことを提案したが、組合はこれに応じなかつたので、右提案は撤回されることとなつた。組合は、前記テレシネ課員四名増の要求を取下げるから、被告会社も右二名減の人事計画を撤回してこれを継続審議すべく提案してきたが、被告会社は拒否した。

五月二日ないし四日 それぞれ二回、三回、五回の団交を行つた。

五日 第三八回団交で被告会社は次の提案をした。(1)、減員されてテレシネ課員二名分の作業量の処理は、問題があれば要員を増加するか、時間外労働で補うか、デスク業務者が行うか、機械の合理化によつて実現することとする、(2)、シフト勤務表の一本増は時間外労働で解消する。組合は右提案を拒否する旨回答してきた。

二、ロツクアウトに至るまでの組合の争議行為

(一)、組合の争議行為等は次に述べるほか原告ら主張のとおりである。

四月一三日 中央斗争委員一三名の五時間指名ストライキ。

二二日 無通告のストライキも辞さないとの組合速報が流された。

三〇日 配転対象者の二四時間指名ストライキ。

五月二日 テレビ技術部編成課テレビ運行担当者六名、中央斗争委員一三名の二四時間指名ストライキ。

(二)、新勤務拒否斗争について

組合の指令した新勤務拒否の争議行為は、単に新職場における就労を拒否するだけでなく、旧勤務場所において従来通り勤務するものであつて、会社の業務指示権を排除するものであるから、組合の有する争議行為の指令権限を踰越した違法な争議行為である。

四月二四日テレシネ課配転対象者二名は、旧勤務場所にとどまつて就労しようとした。同月二五日右二名は前日同様旧勤務につき課長の制止を無視して同所に滞留し、右二名のほか組合員二名も新勤務表に従わず旧勤務表にもとづく業務を続けたので、非組合員が代替した。同月二六日も前日同様であつた。同二七日も前日同様であつた。同二七日も前日同様であつたので、被告会社はやむなく、配転対象者の前記二名を除く組合員につき同月二九日まで旧勤務に戻し、その間非組合員が新勤務表の業務を代替した。同月三〇日配転対象者以外のテレシネ課組合員九名は旧勤務表に従つて就労した。五月四日はテレシネ課の組合員全員が旧勤務表に従つて勤務した。このような争議行為に対し、被告会社は、職場の混乱、放送事故の誘発を恐れて放置看過せざるをえなかつた。

(三)、無通告スト、ミニスト

四月二四日から二六日および同月三〇日の新勤務拒否斗争、五月一日、三日、五日の法定外休日出勤拒否斗争はいづれも被告会社に無通告で行われ、また、組合はかつて昭和三八年の春斗において、いわゆるミニストを無通告で実施したが、今回の争議においても、五月六日以降これを実施しないという保証はどこにもなかつた。

三、ロツクアウトの継続について

(一)、ロツクアウト中の組合の斗争態勢

ロツクアウト中、組合は表通用門前付近にテントを張り、ピケを強化充実させ、五月一三日、六月七日、同月二〇日にはスクラムを組み実力をもつて被告会社役員や非組合員の入門を阻止する等斗争態勢はいよいよ強化されていつた。

(二)、交渉経過

1、ロツクアウト中、組合は連日のように被告会社に対して団交要求ならびに就労請求をしてきたが、組合に事態解決のための新提案がないので被告会社はこれを拒否した。

2、団体交渉

五月二八日山口県徳山総合庁舎大会議室において団交が再開されたが、組合は春斗問題、放送延長問題について五月五日の団交における態度と変りがなく、ロツクアウト中の賃金支給の要求を付加した。その後、五月二九日、六月二日、三日、五日に団交をしたが、労使の主張は対立したままであつた。

3、山口地方労働委員会の斜旋

組合は六月八日山口地労委に対し斡旋申請をなしたので、被告会社は右地労委に対し斡旋に応ずる旨回答した。斡旋において、組合は放送延長問題と春斗問題に付加して争議責任の不追求とロツクアウト中の賃金の支給を新たに妥結の条件として要求してきたが、最終的には妥結条件として立上り資金を要求した。そこで被告会社は、社内の厚生資金貸付規程を準用し、貸付限度額および返済期限について優遇することを提案したが、組合はこれを拒絶した。

4、ロツクアウトの解除

七月四日地労委の斡旋によつて本件紛争に関する交渉が妥結したので、被告会社は同日本件ロツクアウトを解除した。斡旋案の内容は、春斗要求問題については四月二七日、放送延長問題については五月五日のそれぞれ被告会社回答を組合が承認するというものであつた。

四、被告会社事業の特殊性

放送事業は予定のプログラムに従い時間とともに電波を流さなければならず、もしそのプログラムが何らかの事由によつて停廃させられたとすれば、その停波した時間帯の放送を取り戻すことはできない。このように放送という特殊な事業を行う会社にとつて、組合の争議戦術として無通告ストが行われ、そのために停波その他の放送事故が発生した場合には、放送企業は致命的な打撃を受ける。また、国の電波を預かるという企業の特殊性から、被告会社の業務指揮系統を完全に奪取する本件新勤務拒否斗争を違法として排除する必要が強いのである。

五、ロツクアウトの違法性の要件

ロツクアウトは受動的・防衛的なものでなければならず、先制的・攻撃的ロツクアウトは正当性を有しないといいうるが、右受動的ないし防衛的性格は、必ずしも企業防衛上緊急やむを得ないことを要するのではなく、労働者側の争議行為、労使間の交渉状況との相関関係において判断すれば足りるものと解すべきであるが、本件では被告会社は、組合との間で十分交渉を尽し、譲るべきところは譲つて紛争解決に努力したが話し合いによる解決の見通しがなく、組合は次第に争議行為を強化していたのであるから、本件ロツクアウトは適法である。また、いつたん正当に開始されたロツクアウトは、組合がいまだ斗争態勢を解かない段階において違法視されることはない。今次紛争において、組合の就労要求が真意に出たものでなく、平常業務を開始しうる状態にあつたとはいえないのであるから、本件ロツクアウトは適法に継続したものといえる。

以上のとおり被告会社のなした本件ロツクアウトは適法であるから、被告会社は原告らに対し右ロツクアウト中の賃金を支払う義務はなく、原告らの本訴請求は失当である。

第五、被告会社の主張に対する原告らの答弁

一、被告会社の主張一(一)の事実は認める。

二、同一(二)の事実中、従前の放送時間および今回の時間延長等の時間関係については認めるが、その余の事実は不知。

三、同二(一)の事実中、四月一三日、二二日の各行為は認める。その余は争う。

四、同三(一)の事実は否認。同三(二)4の事実は認める。

五、同四、五は争う。

第六、証拠関係(省略)

理由

第一、当事者

被告会社が一般放送事業等これに付帯する一切の業務を営業目的とする資本金二億三、〇〇〇万円の株式会社であり、原告らがいずれも被告会社に雇用されている従業員であつて、被告会社の従業員をもつて組織されている山口放送労働組合(以下、単に組合という)の組合員であることは当事者間に争いがない。

第二、ロツクアウトの実施

昭和四二年五月六日午前二時ころ、被告会社が、組合に対しロツクアウトに入る旨の通告をして原告らの就労を拒否し、そのころ会社(本社)施設の周囲に有刺鉄線をはつて原告らの立入りを禁じ、その後右ロツクアウトを同年七月四日解除するまで継続してその間原告らの就労を拒否したことは当事者間に争いがない。

第三、ロツクアウトに至るまでの経過

一、本件紛争発生当時の被告会社の概要

成立に争いのない甲第九七ないし第一〇三号証、同乙第三号証、証人松浦武の証言によつて成立の真正を認めうる乙第九号証、原告池田秀夫本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第六号証、証人中森謹重の証言により真正に成立したと認められる甲第一〇五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一〇八号証および証人松浦武、同中森謹重の各証言ならびに原告山本義明(第一回)、同池田秀夫各本人尋問の結果によれば次の事実を認めることができる。被告会社は昭和三一年四月ラジオ山口の名称のもとに創業して以来、同三四年一〇月テレビ局を開局するなどして、その事業を着実に発展させ、本件紛争当時、東京・大阪・広島・下関・福岡に各支社を、山口・宇部に各支局を、そのほかテレビ中継局六局とラジオ中継局四局を設置する規模を有し、利益金はその四年前の六倍弱にあたる約九、〇〇〇万円を計上していたが、当時テレビ放送事業はカラー化が普及し、被告会社も遅ればせながらその準備を遂行していた。また他方、被告会社は業務機構について、同三七年二月以降従来の部課制を改めてその上部に総務局・業務局、技術局を増設し、本件当時従業員合計二二五名中、局長・部長・部次長・課長・課次長等合計四八名(係長を含めると合計七九名)のいわゆる職制を擁するようになつた。しかして本件紛争の最も激しかつたテレビ技術部は全従業員二九名(調整課一二名、テレシネ課一七名)でうち二三名(調整課九名、テレシネ課一四名)が組合員であつた。

二、今次紛争の経過

(一)、役職手当に関する給与規則改正問題

証人熊野幹介の証言により真正に成立したと認められる乙第一四号証、原告長光明生本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第六〇号証、証人福田修三の証言によつて真正に成立したと認められる乙第一〇号証、同乙第一一号証の一、二、右証人福田、同熊野の各証言ならびに右原告長光、同山本義明各本人尋問(第二回)の各結果によれば次の事実を認めることができる。昭和四二年一月九日ころから被告会社は組合に対し給与規程改正のための意見書を提出するよう申出ていたところ、組合は同年二月一五日後記説示の春斗要求問題解決までこれを棚上げすべき旨回答したが、被告会社は組合の意見書を添付することなく労働基準監督署に対し同月二六日付をもつて右改正手続を履践してしまつたので、組合から同年三月二四日抗議を受け、右改正につき就労規則の従業員に対する衆知義務の履行が遅れたとして陳謝した。

(二)、組合の春斗要求とその交渉結果

組合が昭和四二年二月一四日臨時大会決定にもとづき、同月一五日および二三日に被告会社に対し、基本給表の是正、一律一万二、〇〇〇円の賃上げ、諸手当の増額、査定撤廃等合計一一項目の要求を提出し、これに対する被告会社の回答日を同年三月一日と指定したが、同二八日に至つて被告会社はその作成の修正基本給表にもとづき組合員一人平均九八六円および一、五〇〇円の臨時昇給、修正基本給表による定期昇給等を実施する旨の第一次回答をなし、さらに同年四月二四日、二七日の両日にわたり被告会社主張一(一)記載のとおりの第二次回答をなしたことおよび同月三〇日後記説示の人事問題の被告会社案を組合が承諾することを条件に右第二次回答の臨時昇給額を一律配分する旨提案したが、組合が右提案を即日拒否したことは当事者間に争いがない。

前記証人熊野の証言によつて真正に成立したと認められる乙第二四号証、成立に争いのない甲第一四号証、前記長光本人尋問の結果真正に成立したと認められる甲第六〇号証および右熊野、福田の各証言ならびに右長光本人尋問の各結果を総合すれば以下の事実を認めることができる。被告会社の前記第一次回答により修正基本給表を適用すると、かえつて従前より不利益を受けたり右是正措置の利益を受けない従業員が合計一五名生じたから、組合は同時にその余の回答も不満として第二次回答を求めたところ、被告会社は前記のとおり基本給表の再修正、食費手当、通勤手当、住宅手当、深夜勤手当、人事考課制を内容とする第二次回答をしたこと、組合はこれに対し臨時昇給額の一律配分、査定の撤廃を要求して春斗要求問題の解決の見込みがたたなかつたので、被告会社は前記のとおり四月三〇日に人事問題を組合が会社案どおりに承認して一括妥結することを条件に昇給額の組合員一律配分を提案し、同日午後七時までに右提案につき組合の意見がなかつたので組合が提案を拒否したものと解して、右条件付提案を撤回する旨明らかにしたこと、右最終提案は組合にとつて春斗要求に関する限りほぼ満足すべきものであつたが、後記説示のとおり放送延長に伴う被告会社の人事計画につき受け入れがたいものと判断して結局右提案を受諾しなかつたことが認められ、右認定をくつがえすに足る証拠はない。

(三)、放送延長およびこれに伴う人事計画

原告らの請求原因三(三)1記載のとおり、被告会社が昭和四二年三月八日テレビ放送時間延長につき翌四月三日実施予定で検討中である旨明らかにしたこと、同年三月一三日人員計画を除くテレビ放送時間延長計画を公表し、同月一八日組合との団交の席上で右人員計画として(1)、業務部編成課においてテレビ運行要員二名、ラジオ編成運行要員一名、業務部連絡課テレビCM整理要員一名をそれぞれ増員し、テレビ技術部テレシネ課において運用要員および保守要員各一名(計二名)を減員すること(2)、勤務シフトを一部変更すること(3)、タイムCFは最低一時間以上一本化し、この作業は編成課において行うこととする内容の提案を発表したこと、同月二〇日新勤務表および業務分担表を提示し、従前の放送時間および右延長計画後の放送時間が被告会社主張一(二)記載のとおりであつて、従前の非放送時間のうち合計二時間四五分を今般放送時間にくみ入れたが、うち二時間二五分は従来いわゆる空き時間(スタンバイ作業時間)であつたことは当事者間に争いがない。

前記証人福田の証言により真正に成立したと認められる乙第一三号証の一、二、成立に争いのない乙第六号証、前記乙第九、第一〇号証、証人松浦武の証言によつて真正に成立したと認められる乙第二号証、同第七号証、右証人福田、同松浦、同深川秀穂の各証言および原告中津井紀元本人尋問(第二回)ならびに検証の結果によれば次の事実が認められる。被告会社は中国・九州地方における唯一の日本テレビ系列会社であつたこと等営業政策上の理由から、昭和四二年当初から日本テレビ作成のミツドナイトワイドシヨー「11PM」を新番組として放送すべきことを具体的に検討していたが、同年二月一〇日業務部編成課においてテレビ新番組編成計画の成案を得たので、同月二〇日に右成案にもとづいて四月三日から実施する旨を決定して人事異動の検討にとりかかつたこと、三月八日前記のとおり組合に対し放送延長問題を提起して以降、春斗要求および放送延長について後記説示のとおり組合との交渉が続けられたが、その間被告会社および組合は、本件で最も交渉が難航したテレシネ課二名減員計画につき概略次のごとき説明ないし反対意見を交わした。すなわち、被告会社は右計画の事由として、テレシネ機器の合理化(無調整トランジスター化ビデコンカメラ装置の導入、マスターモニターのトランジスター化、一六ミルフイルムプロジエクターの自動化に伴うステイシヨンブレイクフイルムの一本化、シネシンクの自動化、新型テロツプ装置の導入、カメラとプロジエクターの組合わせの単純化、トランジスター化VTR装置の導入、電動フイルムワインダーの導入等)が昭和四一年一一月頃までに完了し、かかる合理化によりテレシネ課の業務量は課員三名分相当が減少したが、今回の放送延長を考慮して二名減員にとどめたとし、組合は、トランジスター化の各カメラの安定度は従前の真空管式と同程度であり、テロツプ装置は旧型も使用していること、シネシンクの自動頭出し装置は手間がかかること電動ワインダーによる作業量減はごく少ない等々に反し、従前の放送休止時間に放送することによる機器準備作業の大巾増加、午前〇時以降のシフト勤務の新設、ビデオエンジニア(VE)勤務内容がカメラコントロール(C)とVTR勤務を兼務すること等の労働過重原因が重なることなどを理由に右会社計画に反対の態度を示してきた。

(四)、組合との交渉経過

前記証人福田、熊野の証言によつて真正に成立したと認められる乙第一一号証の一二、同乙第一二号証の一ないし一三、同乙第二二号証、前記乙第二四号証、同乙第一〇号証、同甲第六〇号証、成立に争いのない乙第二三号証の一、同甲第二七号証および右証人福田、熊野、深川、重田豊宏の各証言ならびに前記原告山本(第二回)と同長光(いづれも後記採用しない部分を除く)各本人尋問の結果を総合すれば、昭和四二年三月一八日以後下記のごとき経過で被告会社と組合間の交渉が行われたことを認めることができる(団交回数は今次春斗、放送延長に関する団交回数を示す)。

三月一八日 第五回団交(一時間)を行ない、被告会社は前記説示のとおりの人員計画発表と同時に、各種機器の合理化等計画理由を説明したが、組合はテレシネ課二名減員案を不服として討議した。

三月二四日 第七回団交(二時間)を行ない。被告会社は前記人員計画(1)につき業務部編成課テレビ運行要員二名増員、テレビ技術部テレシネ課運行要員および同課保守要員各一名減員、制作部アナウンス課女子アナウンサー五名採用する旨変更して発表したが、組合は、テレシネ課二名減員とタイムCFの一本化を労働過重として反対し質議を交わした。

三月二七日 第九回団交(一時間一〇分)を行ない、主として放送延長に関して討論したが、被告会社は四月三日放送延長実施が不可能となつたことを示唆した。

三月二九日 第一一回団交(二〇分)を行ない、組合は、テレシネ課四名、編成課テレビ運行担当二名、アナウンス課男子四名、報道部五名を各増員し、テレシネ課および編成課の勤務形態を三勤務制にすること等を要求してその理由を説明した。また、同日テレビ技術部調整課課会(一時間半)が開かれ、被告会社は放送延長について説明を行なつた。

三月三〇日 第一二回団交(一時間五〇分)を開き、組合は春斗要求の回答につき、昇給額が低額でいわゆる上厚下薄の給与体系である点等を指摘し、その他放送延長について討議した。

三月三一日 第一三回団交(二時間)を行ない、組合は被告会社の求めにより組合の三月二九日付提案を説明した。同日テレビ技術部テレシネ課課会(三時間三〇分)において、被告会社は、泊り明け勤務・朝放送のスタンバイ作業・ビデオエンジニア(VE)兼務の問題を説明した。

四月五日 第一六回団交(二時間)を行ない、被告会社は組合の三月二九日付放送延長に関する提案に対し整理反論したが、組合の納得を得られず、その際男子アナウンサー二名を新規採用することを明らかにし、春斗要求事項についても討論した。

四月一〇日 第一九回団交(五〇分)を開き、春斗要求につき質議し、被告会社は四月一七日付人事異動として、テレシネ課員原告橋本栄允、同井上喬一をそれぞれ編成課に、総務局管理部原告越智宣幸をラジオ技術課に、ラジオ技術課原告羽柴隆を総務局管理部にそれぞれ異動させる旨組合に内示し、放送延長を五月一日から実施する予定であることを通知した。

四月一一日 第二〇回団交(三〇分)を行ない、組合は人事異動の撤回を要求したが、被告会社は三月八日以来話し合いを重ねてきたとして右要求を拒否した。

四月一五日 第二二回団交(五〇分)を開き、春斗要求、放送延長問題について質議し、被告会社は四月一七日に予定どおり人事異動を発令する旨伝えた。

四月一七日 第二三回団交(五五分)を行ない、被告会社が当日人事異動を発令したことにつき、組合は協議不十分であるとして抗議し、応酬があつた。

四月一九日 第二五回団交(一時間二〇分)を開き、春斗要求問題、放送延長に伴うテレシネ課二名減員につき応答し、さらに、選挙速報業務が事前協議の対象となるか否かについて討論した。

四月二〇日 第二〇回団交(一時間二五分)を行ない、前回同様の討論をなし、被告会社は春闘要求について検討中であることを告げる一方、翌二一日のプロレス中継業務を組合が拒否することのないよう要望した。

四月二一日 第二七回団交(二時間一〇分)を開き、放送延長問題につき討議し、被告会社は、テレシネ課の勤務については実験期間をおくこと、意思の疎通をはかるため労使協議会を活用すること等を考える必要がある旨述べた。

四月二四日 第二八回団交(一時間)を行ない、被告会社は検討中の春斗要求事項について前記説示のとおり、住宅費、食費、通勤費の各補助金の増額をする旨回答した際、後記説示のとおりの組合の新勤務拒否斗争の撤回を求めたところ、組合は、本日一日だけ組合の右指令を解くから被告会社も本日だけ新勤務体制にもとづく業務命令を保留して人事異動について話し合うべき旨を提案したが、被告会社は業務命令を保留しても事態の解決は望めないと判断してこれを拒否した。また、同日、被告会社と組合および職場代表によつて団交の小委員会を設けて討議した。

四月二七日 第三一回団交(五分)を開き、被告会社は前記説示のとおりの第二次回答(最終回答)を呈示し、人事問題については、放送延長に伴う諸条件を継続審議とする案を伝えた。

四月二八日 第三二回団交(一時間三〇分)を行ない、組合は臨時昇給額の一律配分、査定の中止を求め、テレシネ課二名減員について追求した。

四月三〇日 第三四回団交(五回に分けて行われ合計四五分)が開かれ、被告会社は前記説示のとおり今次紛争を一挙に解決するための最終提案を行なつたところ、組合は、放送延長に協力するという基本的態度に変りはないが、テレシネ課四名増員要求と会社の同二名減員案との差について被告会社が再考慮するよう求めたが、次に提案として、組合のテレシネ課四名増員要求と被告会社の同二名減員案の双方を撤回することを主張した。被告会社は右提案を拒否したうえでそのほかの組合の解決方法を求めたところ、組合は解決するまで現状どおりテレシネ課員は一七名で運行し、二名減員案は継続審議に付すことを提案し結局話し合いは決裂したが、被告会社から三六協定締結の要求があつた。

五月二日 第三五回団交(二回に分けて行ない合計二時間三〇分)を開き、従前の議論をくり返して行ない、翌日にわたる勤務および超勤の取り扱いについて質議したうえ、被告会社は宿直室の整備、深夜勤務手当、夜勤送り等を考慮し、放送延長実施後問題が生ずれば交渉に応ずる旨約し、いわゆる三六協定の締結を求めた。

五月三日 第三六回団交(三回に分けて行ない合計一時間五分)を開き、主として組合の争議行為に関し応酬があつた。

五月四日 第三七回団交(五回に分けて行ない合計三時間五分)を開き、テレシネ課二名減員について論議したが、組合は、放送延長自体には協力するがテレシネ課は合計一七名をもつて試験期間を設けて実施する旨の提案をしたが、被告がこれを拒否したので、組合は右提案を撤回した。

五月五日 第三八回団交(二五分)を開き、被告会社はテレシネ課二名減員後の作業処理として、要員ないしデスク業務者で処理するか時間外労働ないし機器の改善で補う、シフト勤務の一本増加については組合の意見に従つてもよい等を提案し、これが入れられねば今後の団交は無意味である旨付言したところ、組合は右提案を従前の被告会社の主張の整理にすぎないと判断してこれを拒否し、ついに交渉は物別れに終つた。

右期間中、三月二五日第八回団交(一時間三〇分)、四月六日第一七回団交(一時間四五分)、同月一三日第二一回団交(五五分)、同月二五日第二九回団交(一時間一五分)、同月二六日第三〇回団交(二五分)において今次放送延長に関し討論した。また、三月二三日、二四日、二七日テレビ技術部の部会を設け、テレシネ課二名減員につき被告会社の説明とこれに対する質議応答がなされた。以上の事実を認めることができ、右認定に反する前記山本、長光各本人尋問の結果は本項冒頭掲示の各証拠に照し採用しがたく、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(五)、ロツクアウトに至るまでの組合の争議行為

組合は、三月四日臨時組合大会において春斗要求に関するスト権を、三月二七日放送延長に伴う労働条件切り下げに反対するスト権をそれぞれ確立したこと、三月一五日春斗要求に対する被告会社の回答遅延に抗議して組合員全員の二時間ストライキを初めとして、同月三〇日被告会社の前記春斗要求第一次回答の是正を要求して本社組合員の一時間の、四月七日、一〇日、一三日には人事異動の強行実施阻止ないし春斗要求に対する回答遅延に抗議してそれぞれ本社組合員全員の一時間、二五分、二時間一〇分の各ストライキを、同一三日中央斗争委員一三名の五時間指名ストライキを、同月一五日県会議員選挙速報に関する事前協議義務違反に対する抗議として組合員全員の右速報業務の一一時間ストライキを、同月一八日人事異動発令に抗議して本社組合員全員の五時間ストライキを、同月二一日組合員全員の二時間および一時間のストライキならびにプロレス中継担当者八名の一二時間指名ストライキを行ない、同月二二日無通告ストも辞さないとの組合速報が流され、同月二四日から二七日までは勤務変更拒否指令により新勤務拒否ないし配転拒否の争議行為を敢行し、同月二八日、二九日および五月二日人事異動による配置転換対象者の指名ストライキを、四月三〇日、五月四日前記新勤務拒否斗争を行い、五月一日、三日、五日には組合員をして法定外休日出勤を拒否せしめた(争議行為といえるか否かは後に説示する)ことは当事者間に争いがない。

前記証人熊野の証言の結果により真正に成立したと認められる乙第二五号証の二、三、前記乙第二四号証、前記証人重田の証言の結果により真正に成立したと認められる乙第三〇号証の七、右熊野、重田の各証言の結果によれば、組合は四月三〇日配転対象者の二四時間ストライキ、五月二日テレビ技術部編成課テレビ運行担当者、中央斗争委員の二四時間指名ストライキをそれぞれ行なつたことおよび前記選挙速報業務、プロレス中継拒否により被告会社はそれぞれ予め準備した代替要員により辛うじて右各放送を遂行することとなつたことが認められる。

組合は右新勤務拒否斗争が業務遂行に支障をきたさないものであるから正当な争議行為であると主張し、被告会社は争議行為の範囲を逸脱した違法行為であると反論するので判断するに、前記証人熊野の証言によつて真正に成立したと認められる乙第二五号証の一ないし三、前記証人重田の証言によつて真正に成立したと認められる乙第二八、同第二九号証、同第三〇号証の一ないし九、前記乙第二二号証、前記原告長光本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第六二ないし第六四号証および右証人熊野、同重田の各証言、原告中津井紀元(第二回)、前記原告山本(第二回)、同長光各本人尋問の各結果ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、右新勤務拒否斗争につき次の事実を認めることができる。すなわち、組合は四月二三日斗争指令第三九号をもつて、人事異動強行による勤務変更は拒否せよ、との指令を発し、これにもとづきテレシネ課においては、翌二四日配転対象者たる組合員・原告橋本栄允、同井上喬一がそれぞれ新勤務たる編成課業務をせずにテレシネ室に出勤してきたので、テレシネ課長、同課次長において右両名が旧勤務表にもとづいて執務しないよう注意を払いながら代替勤務をするに至つたのであるが、翌二五日も前記指令にもとづいて、前日同様右橋本、井上両名はほぼ旧勤務時間表によりテレシネ室に出勤したのであるが、同日は組合員・原告木田正昭、同広瀬一雄において右橋本、井上両名の旧勤務を代替すべき業務命令(新勤務命令)が発せられているにもかかわらず、前記斗争指令にもとづきこれを拒否して、右木田は午前一〇時からスイツチヤー勤務に、右広瀬は午後五時からテロツプ勤務にそれぞれ就くべきところ、右両名は午前一〇時からVTR室に入室し旧勤務たるVTR研修業務に従事した。四月二六日も右橋本、井上、木田、広瀬は前日同様の業務命令(新勤務命令)が発せられているにもかかわらず、それぞれ各自の旧勤務に就いたので、前記テレシネ課長、同課次長が右各人の代替勤務を実行せざるを得なくなつた結果、右職制らは結局自己の本来の作業と、右各人の代替勤務および配転者が旧勤務を実行しないように監視することを余儀なくされ次第に勤務が過重となつた。被告会社は、このような事態を正常化するためには少くとも右木田、広瀬両名に対し配転者の代替勤務命令(新勤務命令)を撤回し旧勤務に復帰させるべく勤務変更命令を発する以外方法がなくなつたので、四月二七日から二九日までの三日間右木田、広瀬を除くその余のテレシネ課員についてのみ新勤務体制をもつてテレシネ業務を遂行することとした。四月二七日前記橋本、井上は前日同様旧勤務表に従つてテレシネ室に入室し、右木田、広瀬も旧勤務に就労したが、右木田、広瀬については前記のとおり旧勤務配置に変更する業務命令を発したので、テレシネ課長、同課次長は前記橋本、井上の代替業務を行なうかたわら右両名のテレシネ室での機器操作がないよう配慮を続けた。もつとも、右両配転者はテレシネ室において時折自己の旧勤務業務を実行しようとしたが、職制にこれを制止されたのでさしたる業務の障害や放送事故の現実の可能性を生ぜしめた事情がうかがわれなかつた。四月二八日ないし三〇日組合の右橋本、井上に対する指名ストライキにもとづき前記のとおり右両名は二四時間ストライキにもとづき前記のとおり右両名は二四時間ストライキをしたのであるが、被告会社は四月三〇日前記木田、広瀬に対して再び新勤務表による勤務をするよう命じたところ、組合は四月二九日付をもつてテレシネ課組合員全員に対し新勤務を拒否せよとの指令を発し、これにもとづきテレシネ課組合員らは旧勤務表にもとづいて就労した。被告会社は、右組合員らが旧勤務表にもとづいて勤務していることを確認したものの(テレシネ課の当日の出勤組合員一一名のうち五名については新・旧勤務内容が同一であつた)、新勤務による業務命令を強制することによつて生ずる混乱の発生を恐れ、組合員らの勤務を放置黙認せざるを得なくなつた。放送延長が実施された後の五月四日、テレシネ課組合員は再度新勤務拒否斗争に入つたのであるが、新たな早期放送および午前中の従前の空き時間における放送そのものは拒否することはなかつたものの午前〇時以降の深夜番組「11PM」についての作業を拒否したので、右番組は非組合員によつて放送を継続しなければならなくなつた。さらに五月五日組合は前記のとおり翌六日の指名スト、新勤務拒否指令を発したのであるが、右各指令は被告会社がロックアウトを宣したため、その後である五月六日午前七時ころ取消された。以上の認定をくつがえすに足る証拠はない。ところで、右認定事実に明らかなごとく、組合の右配転拒否ないし新勤務拒否斗争は、労務(新勤務)の不提供にとどまらず、被告会社の指揮命令を排除して積極的に組合自らの指揮命令によつて労働力を使用した(旧勤務)ことにほかならないのである。もともと組合の争議行為は労働者が労働契約上負担する労務供給義務を満足に履行しないこと等により使用者の正常な業務を阻害するものであるが、企業所有権保障との関係において一定の限度があることを否みえないのであつて、本件のごとくテレシネ課組合員に対し前記のごとき態様で指令・敢行した争議行為は、被告会社に与えた業務支障の軽重にかかわらず、正当な争議行為の限界を逸脱するものとして、違法な争議行為といわざるをえない。

次に原告らは前記休日出勤拒否が争議行為といえないと主張し、被告会社はこれに反論して争つているので審究するに、被告会社において昭和四二年五月一日以降いわゆる三六協定が締結されていなかつたことは当事者間に争いがないところ、成立に争いのない甲第四号証、同第八八号証の一、二、前記証人重田の証言によつて真正に成立したと認められる乙第三一号証、同第三二号証、前記甲第六〇号証、前記証人熊野、同重田の各証言および前記原告山本(第二回)本人尋問の各結果を総合すれば次の事実を認めることができる。組合と被告会社との間にはほぼ一ヶ月おきに三六協定が締結更新されてきて、本件紛争中においても従前の三六協定更新に労使双方の主張の不一致は格別認められなかつたので組合から三六協定締結を申出たこともあつたのであるが、紛争が容易に解決しないので組合は次第に三六協定締結拒否の気運を高めるに至り、協定期限切れの四月末日以降の被告会社の右協定締結要求に対し、組合は五月一日、三日、五日休日出勤拒否を指令しこれを実行したのであつた。そこで被告会社は、組合の争議行為が前記説示のとおり行われる中で組合員全員の就労拒否に対処するためにあらかじめ作成した緊急態勢勤務表にもとづき非組合員をもつて右各日の業務を遂行して放送の停廃を防止した。以上の認定事実によれば、組合の右休日出勤拒否は、もつぱら組合がその主張・要求を貫徹する目的のために行われたものということができるのであつて、これがため被告会社が右認定のごとく業務の運営が阻害されたのであるから右拒否行為をもつて争議行為というを妨げない。もつとも労働基準法によれば三六協定が締結されていない場合、使用者は労働者に休日労働を命ずることを禁止されているのであるが、本件のごとく協定締結の拒否自体がその真の目的ではなくて他の主張目的達成のために行なわれる場合は、右の如く争議行為と認めても右禁止法規の意図するところに何ら抵触するものとは解しがたく、また、阻害される「業務の正常な運営」とは、労使慣行によつて築き上げられた通常の業務運営をいうものと解すべきであるから、本件のように協定の締結が更新されてきた事情のもとでは休日労働は正常な運営といいうるのである。

被告会社は、右新勤務拒否および休日出勤拒否斗争が無通告によつて行なわれたと主張し、原告らは、あらかじめ被告会社内の組合掲示板にその旨の斗争指令を公表する方法により通告したと反論するが、かりに原告ら主張のような公表をしたと認められるとしても、かような方法は通常組合員に対する衆知徹底のために行われるものとみるべきであつてこれをもつて被告会社に対する争議通告とは認められない。とはいうものの、本件全証拠によるも、被告会社と組合との間に争議予告に関する平和条項ないし労使慣行があつたものと認められないのであるから、争議予告を欠いたという一事が休日出勤拒否斗争をも違法とするものではない。

次に、組合がいわゆるミニストを実行する恐れがあつたか否かにつき検討するに、前記原告山本(第一回)本人尋問の結果によつて真正に成立したと認められる甲第一九号証、成立に争いのない甲第二一号証、前記証人中森の証言によつて真正に成立したと認められる甲第一〇七号証、成立に争いのない乙第一号証、前記証人熊野、同中森の各証言および原告越智宣幸、同前記山本(第一回)、同長光各本人尋問の結果によれば、いわゆるミニストとはコマーシヤルフイルムがはさみ込まれるごく短時間をねらつてステイシヨンブレイクの操作をやめるストライキであつて、民間放送においては最も重大な影響を受ける時間帯における労務不提供であるからこれが無通告で行なわれた場合には経済的に大きな損害を受ける恐れがあるが、被告会社においては昭和三八年五月組合が無通告のミニストを一回実行したことがあつたが、その後かかるストライキは敢行されていなかつたところ、被告会社はたまたま昭和四一年春訴外高知放送株式会社においてミニストが行なわれたことを聞き及び、本件紛争中組合速報に無通告ストも辞さないとのニユースを流されたことから、組合のミニスト実行の恐れを抱いたことが認められるのであるが、他方、昭和三八年八月民放労連第一四回定期大会において経験主義的打撃中心主義のストライキは戦術として問題であることが指摘されたことおよび職制・非組合員が多くなつて以前よりストの代替要員が確保されやすくなつたのでストの効果も減殺される事情もうかがわれる。また、証人松浦武の証言の結果によれば、機器合理化により本件当時ステイシヨンブレイクのフイルムはある程度連続して装填されるようになつたのでミニストの機会が少なくなつたことが認められ、これらの事実を合わせ考えると本件紛争中に組合がミニストを実行する可能性は極めて少なかつたものということができる。

第四、ロツクアウト突入後の事情

一、交渉の経過等

ロツクアウト継続中原告らが連日にわたり被告会社に対し、団交申入れと就労請求をしたことは当事者間に争いがない。成立に争いのない乙第二三号証の七、八、二〇、二一、三四、三六、三八、四〇、四三、四五、四七、五二、五三、五八、五九等、前記乙第二四号証、証人重岡郷美の証言によつて真正に成立したと認められる乙第三五号証の一ないし九および右熊野、重岡の各証言の結果によれば以下のような経過を認めることができる。組合は五月六日以後連日にわたり団交の申入れ、就労請求を続けたが、被告会社はこれに対して、過去三十数回に及ぶ団交において意見を言い尽したので組合に新しい見解がない以上団交は無意味であり、かかる情勢においての就労請求は受け入れがたいとしてこれを拒否し続けてきたところ、五月一八日に至り被告会社は組合との団交に応じる態度を示し、五月二六日組合代表者との間で団交要員数等の事務折衡を行なつた結果、ようやく五月二八日ロツクアウト後の第一回団交(一時間半)が開かれたのであるが、席上組合は春斗要求事項につき、ベースアツプが低額であること、査定撤廃等を、放送延長問題につき、テレシネ課長一七名による運用、テレシネ課員二名の配転命令撤回、シフト勤務の多様化をなくすこと等従前の主張を繰り返し、更にいわば終戦処理問題として、ストライキおよびロツクアウト中の賃金支払、争議責任の不追求を要求したところ、被告会社はこれらに対し会社の五月五日までの回答通りであると返答した。翌五月二九日第二回団交(一二分)が行なわれ、被告会社は春斗要求、放送延長問題について前日通りの回答をしたうえ、ストライキおよびロツクアウト中の賃金は支給しない、組合の違法行為については調査のうえ責任追求する旨固執して団交は不調に終り、更に六月二日、三日、五日に団交が重ねられたが徒労に期す状態となつた。組合は自主交渉による解決を主張していたものの、ついに六月八日山口県地方労働委員会(以下、地労委という)に斡旋を申請したところ、被告会社も検討の結果六月一〇日右斡旋を受諾した。そこで六月一一日第一回斡旋交渉が労使各別に開かれて組合の斡旋項目が被告会社に示されたが、その際被告会社は今次紛争に関する回答は従前通りである旨付言し、六月一三日第二回斡旋期日を迎えたところ、地労委は、斡旋項目として五月二八日第一回団交における組合の要求と同一事項を確認し、被告会社における労使関係は反省すべきものがあると前置きしたうえ紛争解決案として、(イ)春斗要求事項は会社回答通りとする、(ロ)配転は一時中止せしめて話し合う、話し合い期間後は会社案通りとする、(ハ)立上がり資金を支給する。(ニ)争議行為に対する処分は注意して行うことを提示した。被告会社は右解決案(ロ)以下を承服できないとしたため更に六月一七日第三回斡旋交渉が続けられたところ、同日被告会社は、地労委から組合が春斗要求、放送延長、人事問題を会社案どおり了承するのでいわゆる終戦処理としてロツクアウト中の賃金に代えていく分かの金員を支給するよう要請され、加えて組合の違法行為を追求しないよう忠言されたが、いずれにも応じがたいとして返答した。その後、被告会社は六月一九日地労委から組合が前記責任不追求の項目を取下げる旨連絡を受けるに至つたが、これが組合からの意向であるか否かを確認していたわけではなかつた。六月二一日および二三日第四、第五回斡旋が続けられたが、右第五回斡旋の際地労委が被告会社に立上がり資金の支給を再度要請した以外に交渉は進展しなかつたところ、六月二四日第六回斡旋の際、被告会社は右立上がり資金の支給に代えて、会社内の厚生資金貸付規程による貸付条件を優遇することを提案していたが、結局七月四日労使双方は地労委の提示した斡旋案、すなわち、(イ)春斗要求事項は四月二八日会社回答通りとする、(ロ)放送延長に伴う新勤務体制は五月五日の会社回答を組合が了承する、(ハ)会社および組合は前二項について争議行為を行なわない、(ニ)ロツクアウトは直ちに解除する等を内容とする斡旋案を受諾してその旨の協定書を作成し、組合員の就労は七月八日からとすることを合意し被告会社は同日本件ロツクアウトを解除することとなつた。

二、組合の争議行為

前記証人熊野の証言によつて真正に成立したと認められる乙第二七号証、成立に争いのない乙第二三号証の九、一二、一五、一九、二四、六八等および右熊野、重岡の各証言の結果によれば、五月六日組合はロツクアウトにより立入禁止区域となつた会社構内に坐り込み等をして団交を要求したが警察官によつて同所から排除せられ、それ以降、組合は表通用門前付近に天幕を張り、宣伝カー・携帯マイクを使用し、スクラムを組みあるいはたむろするなどのこともあつて職制、非組合員等の出入を牽制したこともあつた。かような争議体制が緩急続けられる中で六月二〇日右同所で、出勤してきた非組合員等就労者約四〇名に対しスクラムを組むなどをして一、二時間入門を阻止するに至つたことが認められ、右認定をくつがえすに足る証拠はない。また、原告広瀬一雄、同松浦紘一郎、同兼重和行各本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第五六号証、前記乙第二五号証の一および右各本人尋問の結果によれば、被告会社の支社、支局において本社ロツクアウトに関連し、かつ、会社による組合脱退工作があるとして合計十数回の指名ストライキが行われたことが認められる。

第五、ロツクアウトの適法性

一、原告らは、本件ロツクアウトが争議行為としての目的を有さず組合の弱体化ないし攻撃的破壊を目的とする不当労働行為なるが故に違法であると主張するのであるが、前記原告兼重和行、同松浦紘一郎、同広瀬一雄、同樋口敏行の各供述によるもいまだ右主張事実を肯認するに足らず、他に本件ロツクアウトそのものが不当労働行為であることを推認するに足る証拠はない。

二、次に原告らは本件ロツクアウトがその要件たる企業の存立の危険性、防禦的性格を欠くから違法であると主張するのでこの点につき検討する。

ロツクアウトは使用者が集団的に労働者の労務の提供を拒否することを内容とし、これによつて賃金支払義務を免れることを目的とする社会法上の権利であるところ、かかるロツクアウトを正当として容認しうる範囲については、もともとロツクアウトが労使対等の原則ないし衡平の見地から労働者の争議権の反映として認められるものであるから、これが先制的、攻撃的であつてはならないものと一応いいうるが、具体的な労使関係、労働争議の流動性に鑑みて、紛争における労使間の交渉態度・経過、組合の争議行為の態様、使用者の受ける打撃等具体的事情のもとにおいて労働者の労務の提供に対して使用者に受忍義務を負わせることが社会通念上不相当と認められる場合に当該ロツクアウトは正当性を有するものというべきである。そして、この正当性はロツクアウトの開始についての適法要件であるのみならず、その継続についての要件でもあること理の当然であるといわなければならない。

そこで右観点から本件をみるに、前記証人熊野の証言および弁論の全趣旨によれば、被告会社の放送事業はプログラムどおり正確に業務が遂行されることによつてその目的を果すことができ、放送の斬新性は会社にとつて最も要請される課題であることが認められるのであつて、かかる企業において組合の前記争議行為によつて放送の一時停廃の可能性がないとはいえない状況が生じた以上被告会社がこれを拱手傍観しなければならないものではない。本件紛争において、前記説示のとおり、組合は被告会社との団交に行き詰まりの気配の中で相次ぐストライキを打ち被告会社に対しプロレス中継放送、選挙速報業務に打撃を与え、更にテレシネ課の指名スト、本件放送延長に伴う新勤務体制を拒否する前記違法争議手段に至つたことにより、被告会社はテレシネ課の業務指揮を麻卑させられたので一時、新勤務体制による業務命令の発令を中断せざるをえない状態に陥つたうえ、引き続き行なわれた一連の休日出勤労働拒否の斗争などが加わるに及び、もはや被告会社にとつて原告ら組合員の労働力の提供は賃金負担に見合わないものと判断されるのであつて、その他前記説示した団交経過、争議状態等を勘案すればかかる事情のもとでは本件ロツクアウトはやむをえなかつたものということができる。

原告らは、本件ロツクアウト後組合が連日就労請求したにもかかわらず、被告会社はこれを拒否しておきながら操業を継続したことが利益の権衡を失する不当なものであるから本件ロツクアウトは違法である旨主張するが、前記のとおり労使双方の主張が鋭く対立し全く解決の見通しがつかない事態のままでは、組合員らが就労した後も再び前記説示の争議行為に出る可能性は十分に推測しうるところであつたから、かかる状態における就労請求を受け入れなかつたことで直ちに本件ロツクアウトが違法とされるものではない。また、ロツクアウトは前述のごとく労働者の労務の提供を拒否することに尽きるのであつて、使用者がその期間中操業の自由を失う理由はないのであるから、原告らの主張はにわかに採用できない。

ところで、前記説示のとおりロツクアウト後一ケ月余りを経過した六月八日組合は春斗要求、放送延長問題、終戦処理事項につき地労委に斡旋申請をなして以来も、組合・被告会社双方の主張に殆んど譲歩が見られなかつたのであるが、六月一七日地労委から組合が春斗要求、人事問題を争わないから終戦処理として解決金を支払うよう意向打診を、更に六月一九日組合が終戦処理事項としていた争議責任不追求の項目を取下げた旨の通知をそれぞれ受け、六月二三日地労委から立上がり資金名下で再度金員の支給を要請されたので、翌六月二四日被告会社は社内貸付規程による貸付を考慮することを返答したのであるから、被告会社が組合の意向は地労委側の意見内容どおりであるか否か確認したわけではなかつたにせよ、かような経過から徴すれば、すでに組合が春斗要求、人事問題について会社案のとおり了解したものとして地労委がいわゆる争議妥結金を要請したころには、組合はもはや本件紛争の原因たる春斗要求、人事問題について被告会社に屈服して争議を収束する情勢にあつたものとうかがわれるのであり、被告会社においても、地労委から組合が争議責任不追求の項目を取下げた旨の通知を受けた後再度立上がり資金を要請されたので貸付金交付の返答をなした六月二四日段階において少なくとも右事情を推知しえたものというべきである。もつとも前記、乙第二四号証(七月四日付記載欄部分)によれば、争議責任不追求の項目は取下げた旨の通知があつたものの、その後斡旋成立と同時に組合は争議責任不追求の要求をし、かつロツクアウト中の賃金を請求したこと等が認められることに照らし合わせると、右立上がり資金額について紛争が再燃する可能性が当時、絶無とはいえなかつたかも知れない。しかしながら、いずれにしても、六月二四日段階では、立上がり資金支給問題のみが残された交渉事項といえるのであつて、これは本件ロツクアウトにより派生した終戦処理事項にすぎず、すでに今次紛争の原因となつた春斗要求、放送延長にともなう人事問題の二項目のすべてが地労委という公的機関の斡旋下に平和解決の見通しのついた以上終戦処理事項未解決とはいえ、その後組合が、本件ロツクアウトを正当化した原因をなしたと認められるテレシネ課の新勤務拒否斗争、指名ストライキ等の従前のような争議行為を再現する可能性は殆んど失われるに至つたものといいうるのであるから、これに比すべき争議行為等の急迫事態が発生する恐れが推測される特段の事情が認められない本件においては、単に組合が後記の如き理由で続けたピケツテイング等の争議体制を解かないことに対抗してロツクアウトを継続することは成立に争いのない乙第三六号証の三によつて認められるその後六月二八日第二組合が結成されるに至つたという結果から見ても相当でなく、前記説示のとおり六月二四日以後のロツクアウトはやむをえないものとは認めがたい。けだし、ロツクアウトの終期は、組合の争議体制の消滅時ではなく、ロツクアウトの正当性の消滅時であるというべきだからである。

以上のとおりであつて、本件ロツクアウトは六月二四日以降その正当性を欠くに至つたものというべきであるから、以後被告会社は原告らの労務の提供を拒否したことにつき受領遅滞の責を負うべきこととなるが、原告らの右期間中の賃金請求権はその間の労務の提供あることを必要とするのであるからこの点につき判断するに、組合は前記説示のごとく被告会社表通用門においてスクラムを組むなどのピケツテイングをして非組合員、職制らの入門を阻止する体制を続け、六月二〇日には一、二時間右入門を現実に阻止して操業を妨害した事情等を考えると、組合員らが右期間中(六月二四日以降)果して真に就労の意思を有していたかを疑わしめないでもないが、右ピケツテイングは前記認定事実によればロツクアウト中の非組合員、臨時雇による操業継続に抗議し、不当に長期にわたつたロツクアウトの解除を要求して行なわれたものとうかがわれるのであるから、被告会社がロツクアウトを解除した後に組合員らは就労する意思を有していたものと推認されるのであり、他に就労後直ちに組合員がストライキ等の就労拒否行為を継続する特段の事情も認められないのであるから、組合の前記就労請求によつて原告らの就労意思の存在もうかがわれるのであつて、これにより原告らの労務の提供があつたものというべきである。

三、次に原告らは本件ロツクアウトによる立入禁止区域がテレシネ室以外にも及ぼされたことにつき少くとも部分ロツクアウトをすべきであつた旨主張するのでこの点につき判断する。成立に争いのない乙第四号証の一、二、同乙第五号証の一ないし三、前記証人松浦の証言および前記原告中津井本人尋問の各結果によれば、被告会社のテレビ技術部テレシネ課の業務は、本社社屋二階に各独立した部屋のテレシネ室、VTR室においてテレビ映像録画再生装置の操作をなす中枢部門であつてここでの業務の停廃はたちまち放送の停波につながる極めて重要な作業であると認められるのであるが、前記説示のとおり、組合は主としてテレシネ課における新勤務拒否行為および指名ストを継続することによつて、争議行為による賃金の喪失を最小限度にとどめながら企業経営に対し大きな打撃を与え、かつ全面ストライキ、休日出勤拒否斗争を前後に繰り返したのであるから、かかる状態において実施されるロツクアウトは単にテレシネ課内に限らず組合員全員に対して許されるものといわなければならないのであつて、かような全面的ロツクアウトにもとづいていかなる範囲を立入禁止区域にするかは被告会社の判断にまかされていると解すべきである。

なお原告らは、本件ロツクアウトが正当とされても右期間中の賃金請求権の有無は民法五三六条一項に則り別個に検討されねばならないと主張するが、前記説示のとおりロツクアウトはそれが正当とされる限り労務不受領につき受領遅滞の責を免れる社会法上の権利というべきであるから、かような場合はとりもなおさず民法五三六条一項の債務者の責に帰すべからざる履行不能に該当するものと解すべきで、被告会社は原告らに対する本件ロツクアウト中の前記正当とされる期間における賃金支払債務を当然に免れるものといわなければならない。

第六、賃金請求権

原告らの本件ロツクアウト期間中(昭和四二年五月六日から同年七月三日までの五九日間)の賃金額が別表「ロツクアウト中の賃金額」欄に、昭和四二年度夏季手当および同年度年末手当額中本件ロツクアウトによる減額金額がそれぞれ同表「夏季手当減額分金額」、「年末手当減額分金額」欄に各記載のとおりであることは当事者間に争いがないところ、前記理由により本件ロツクアウトは同年六月二四日以降正当性を有しないから被告会社は原告らに対し右六月二四日から七月三日までの一〇日間の各賃金を支払うべき義務があるというべく、右各賃金額は別表「請求金額」(右ロツクアウト中の賃金およびロツクアウトによる各手当減額金の合計金額)欄記載の各金額の五九分の一〇の割合に相当する金額(円未満は切捨て)すなわち別表「認容額」欄記載の各金額となる。

(結論)

よつて原告らの請求のうち、別表「認容額」欄記載の各金員およびこれに対する本訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四二年七月二一日から右各支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当であるから認容し、その余の各請求は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条仮執行の宣言につき同法一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(別表)

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